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プロットではなくて雰囲気を楽しむ小説……サラ・ウォーターズ著『夜愁』

 戦中戦後のロンドンを舞台にした群像劇。全体が三部構成になっており、物語は現在(1947年)から過去(1944年、1941年)へと遡る。登場人物はそれぞれ暗い過去を持っており、全体の雰囲気も重苦しい。すじらしいすじがあるわけではなく、前作『荊の城』のようなたたみかけるような面白さはない。だが、それにもかかわらず、先を読まずにはいられない。語り口の上手さはさすがにサラ・ウォーターズ。

 第一部では、終戦直後のロンドンの片隅で男女が行き場のない生活を送っている。男装の女性ケイは不労所得があり生活の心配はないが、屋根裏部屋に一人寂しく暮らしている。ヘレンは作家のジュリアと同棲しているが、ヘレンが嫉妬深いので二人の関係がぎくしゃくしている。妻子ある男レジーと不倫関係にあるヴィヴには思いだしたくない過去があるらしい。ヴィヴの弟ダンカンはまだまともな若者に見えるが、なぜかぱっとしない蝋燭工場で働き、年老いたマンディといっしょに暮らしている。
 第二部と第三部で彼らの過去が徐々に明らかになっていく。ケイかつて救急隊の隊員をしており、ヘレンやジュリアと関係があったこと。ヴィヴはケイに助けてもらったことがあること。ダンカンは刑務所に入っていたことがあり、マンディがその刑務所で看守をしていたことなど。
 ミステリの形式で書かれているがミステリではないし、物語性があるわけでもない。レズビアンの描写は前作より多くなっており、そのへんは好みが分かれるかもしれない。しかし、戦中戦後の暗いロンドンと抑圧された同性愛の世界があいまって、不思議な雰囲気を醸し出している。これはプロットではなくて雰囲気を楽しむ小説だ。

夜愁(上・下)/サラ・ウォーターズ

夜愁 上 (1)

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