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集英社版『夜はやさし』は現時点での決定版である

 村上春樹訳が出るという噂があったので『夜はやさし』の新訳を買うのを控えていたが、中央公論社に問い合わせたところ下記のような返事をいただいた。

 村上春樹さんがこの作品の翻訳にご興味をお持ちでいらっしゃることは確かですが、フィッツジェラルドに関しては短篇の翻訳予定などもありますため、本作品に取り組むとしてもかなり先のことになると予想されます。大部の作品ですし、なにぶん村上春樹さんが非常にご多忙ですから、編集部としては長期的な企画と考えています。

 ということで、村上春樹訳はしばらく出そうにない。集英社版の新訳に解説を書いているぐらいだから、悪い翻訳ではなさそうだ。これは買っても損はなさそうだと思い、7月に購入。暑い夏には読みたくなかったので、先週ようやく読み終えた。
 訳者は森真一郎という京都大学大学院準教授。この人の翻訳を読んだことはなく、三十代半ばと若いことも気になったが、読み始めてすぐにそんな不安は吹き飛んだ。読みやすく微妙なニュアンスが伝わるレベルの高い翻訳である。それは例えば、角川文庫版の古い翻訳と比べただけでも、はるかに読みやすい訳になっている。本書は現時点での決定版といっていいと思う。

<角川文庫版・谷口陸夫訳>
 一九一七年の春、ドクター・リチャード・ダイヴァーははじめてチューリッヒにあらわれた、ときに年二十六歳、男として申し分のない年齢であり、まさしく独身時代の最盛期にあたる。戦時下ではあったが、ディック(リチャード)にとっては申し分のない年齢に変わりはなかった、すでに彼のからだには莫大な投資が行われ、値打ちがつきすぎて、銃弾の標的には向かなくなっていたからだ。

<集英社版・森真一郎訳>
 リチャード・ダイヴァー博士が初めてチューリッヒにやってきたのは、一九一七年の春、二十六歳のときのことである。二十六というのは男にとって悪い年ではない。独身時代の盛りといってもいい。戦時中ではあったが、すでにたっぷり資本投下を受け、大砲の弾にして飛ばすにはいささかもったいないほど価値のついたディックにとっては、よい時代であることに変わりはなかった。

夜はやさし

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