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アメリカの死……クリント・イーストウッド監督、主演『グラン・トリノ』

 招待券が手に入ったので、一昨日『グラン・トリノ』を観てきた。封切りから一ヶ月半経ち、平日の割引のない日ということで、観客は自分を入れて五人しかいない。しかし、映画が終わったあとはすごい映画を見たという満足感でいっぱいだった。数多いイーストウッドの映画の中でも飛び抜けた傑作だと思う。

 監督を兼ねるイーストウッドは、ウォルト・コワルスキーという頑固で偏屈なじいさんを演じている。50年代の価値観のまま生きているような老人である。かつて朝鮮戦争に出兵し手柄を立てたが、今は人を殺したという罪悪感に苛まれている。妻を亡くし一人暮らしとなった今は死を待つばかりの生活である。そんな彼が、愛車の72年型グラン・トリノ(フォードのビンテージカー)を盗みに来たモン族(東南アジアに住む山岳民族)の少年タオを捕まえたことがきかけとなり、彼とその家族との交流が始まる。はじめは気が乗らないウォルトだったが、彼らと交流するうちに徐々に心を開くようになる。
 ウォルトは、好きな女の子にも声をかけられないシャイなタオに自信を持たせ、大学の学費を稼ぐための仕事を紹介してやる。しかし、その頃からウォルトは吐血するようになる。病院で検査を受けるたが、好ましい結果ではなさそうだ。おそらくは末期癌といったところだろう。
 このあと思いもよらない展開になる。これは心温まる映画ではないのだ。

<ここから先は結末に触れてあります>

 タオはずっとチンピラ(タオをたきつけてクルマを盗ませようとしたのも彼らだ)につきまとわれていて、仕事の帰りに彼らに嫌がらせを受けてしまう。怒ったウォルトは、タオに手を出さないようにチンピラのボスに脅しをかけるが、逆に彼らに民家を銃撃された上に、タオの姉は暴行され入院してしまう。ウォルトのやったことが、タオの家族を傷つける結果になってしまったのである。チンピラがいるかぎり、彼らが幸福になることはないのだ。
 タオはチンピラに復讐しようとするが、ウォルトは彼を地下室に閉じこめ、ひとりでチンピラの家に向かう。たばこをくわえたウォルトは、拳銃を構えている6、7人のチンピラに向かって「たばこの火がない」と挑発する。彼が懐に手を入れようとすると、チンピラの拳銃が一斉に火を噴き、ウォルトは地面に倒れる。チンピラは逮捕され、タオ達は救われる。
 この場面には伏線がある。街で黒人のチンピラにからまれたタオの姉を助けるときに、ウォルトは懐から拳銃を取り出す場面がある。今回も拳銃を取り出すと思っていると、あっけなく撃たれてしまう。じつはライターを取り出そうとしただけなのだ。最初からチンピラに撃たせて死ぬつもりだったのである。
 確か『続夕陽のガンマン』では撃たれて倒れたあと、織り上がって服の下から鉄板を抜き出す場面があったし、他の映画でもイーストウッドは撃たれても死ぬことはなかった。今回はもちろん二度と起きあがることはない。映画とはいえクリント・イーストが死ぬのを観るのは辛い。
 イーストウッドの死が悲しいのはそれだけではない。朝鮮戦争で現地人を殺したことに負い目を感じているウォルトは、残り少ない自分の命を犠牲にして罪を償おうとしたのである。ウォルトはそのまま今のアメリカと重なる。世界の警察を自負し、朝鮮やベトナムなどで多くのアジア人を殺してきたアメリカは、罪を償うときが来ているのではないか。イーストウッドがこの映画で語りたかったのはそういうことだと思う。
 この映画にはイーストウッドのダーティー・ハリーなどのアクション映画の記憶がたくさんちりばめられている。しかし、この映画のイーストウッドはもはや悪人を懲らしめるハリー・キャラハンではなく、不治の病を患う老人にすぎない。そして、アメリカもかつての輝きはない。かつてフォードの組み立て工だったウォルトの息子は日本車のセールスマンだし、チンピラはホンダ車を乗り回している。グラン・トリノはアメリカの栄光の象徴なのである。そしてこのクルマは、遺言によってタオに与えられる。アメリカの未来を託すのは彼らマイノリティということだろうか。悲しいけれどもすがすがしい印象が残るのはそういう理由からだ。シンプルなストーリーなのに、いろいろのことを語りかけてくれる映画である。

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コメント

TBを有難うございますm(_ _)m
「グラン・トリノ」は近隣のシネコンでの上映最終日にかけつけたのですが、本当に映画館で観てよかったという思いでした。早速TB返しもさせていただきましたm(_ _)m
アメリカは好きな国ではないのですが、こういう作品を生み出す力があるというところに希望を感じます。
私はイーストウッドの作品の初心者なんですが、次の作品の公開も楽しみになっています。

投稿: ぴかちゅう | 2009年6月12日 (金) 02時55分

>ぴかちゅうさん

コメントありがとうございます。
ただ、TBはうまく張り付けれれなかったようです。よろしければ、もう一度やってみてください。

「グラン・トリノ」は本当に素晴らしい映画でした。見逃さなくて幸運でした。

ぴかちゅうさんのブログを読ませてもらったら、スーが暴行を受けたことに気づき、すぐに感想を訂正しました。他の部分も細かいところまでよく見ていますね。感心しました。

映画のウォルトは死にましたが、イーストウッドは元気なので、まだまだ映画を撮り続けるだろうと思います。次回作を期待しましょう。

投稿: カワイルカ | 2009年6月12日 (金) 13時40分

カワイルカさま
再度TBさせていただきましたが、うまくいかない場合もあるので名前欄のULRを該当記事のものにさせていただいていますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
>残り少ない自分の命を犠牲にして罪を償おう......まさに大勢のアジア人を殺したことへの贖罪と未来を託した若者を守るためと両方の意味があるように思いました。未来を若い世代にどういうふうに託すのかを中高年以上の大人は考えていかなければならないですよね。
>次回作を期待しましょう.....どちらかで次回作はネルソン・マンデラに所縁の作品という情報も目に入りました。とにかく楽しみにしているところです。

投稿: ぴかちゅう | 2009年6月13日 (土) 00時11分

>ぴかちゅうさん

今回はTBがうまく貼り付けられていたので、さっそく公開にしました。お手数をおかけしました。

おっしゃるとおり、この映画は贖罪がテーマになっていて、イーストウッドの遺言(まだ早いけど)のような映画だと思います。

劇場で映画を見るのは少ないのですが、今年は「チェンジリング」と「グラン・トリノ」を見れたのは幸運でした。とくに後者は忘れられない映画になりそうです。

この前書き忘れましたが、GyaOでクリント・イーストウッド主演・監督の「ブロンコ・ビリー」と「ペイルライダー」を配信していますので、もし暇があったら見てください。

投稿: カワイルカ | 2009年6月13日 (土) 09時56分

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» 09/06/05 魂をもっていかれた「グラン・トリノ」(T-T) [ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記]
{/m_0216/} 3/1に観た「チェンジリング」でクリント・イーストウッド監督作品を初めて観た。その時の予告編で次回作として主演・監督作品の「グラン・トリノ」が出ていて是非とも観たいと思っていたのだが、母親は字幕を嫌がるし私は吹替えは嫌だし洋画はダメで後回しになっていてMOVIXさいたまの上映最終日、5時過ぎに職場を飛び出してようやく滑り込んだ。 {/m_0058/} 【グラン・トリノ】 「@ 映画生活」のサイトの作品情報は以下の通り(このサイトにはユーチューブでエンドロールのテーマ曲の一部を歌... [続きを読む]

受信: 2009年6月13日 (土) 00時01分

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